まだ年が若い。相手が美しい女で、しかも高価の宝をいだいているのを見て、こころ頗《すこぶ》る動いたが、かんがえてみるとどうも唯者でない。迂闊に泊めてやって、どんな禍いを招くようなことになるかも知れない。さりとて情《すげ》なく断わるにも忍びないので、かれは咄嗟の思案でこう答えた。
「では、まあともかくも休んでおいでなさい。となりへ行ってちょっと相談して来ますから」
 女を煖坑の上に坐らせて、徐四はすぐに表へ出て行ったが、となりの人に相談したところで仕様がないと思ったので、かれは近所の善覚寺《ぜんかくじ》という寺へかけ付けて、方丈《ほうじょう》の円智《えんち》という僧をよび起して相談することにした。円智はここらでも有名の高僧で、徐四も平素から尊敬しているのであった。
 その話を聴いて、円智も眉をひそめた。
「それはおそらく高位顕官の家のむすめか妾で、なにかの子細あって家出したものであろう。それをみだりに留めて置いては、なにかの連坐《まきぞえ》を受けないとも限らない。さりとて追い出すのも気の毒であると思うならば、おまえは今夜この寺に泊まって家へ戻らぬ方がよい。万一の場合には、わたしの留守の間に
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