は手あたり次第にばたばたと斬り倒した。最後に牙《きば》の長いくちばしの黒い者があらわれたので、彼はそれをも斬り伏せた。もうあとに続く者はない。これで妖怪を残らず退治したかと思うと、彼は大いなる満足と愉快を感じて、すぐに旅館の主人を呼んだ。
 その頃にはもう早い※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《とり》が啼いていた。主人をはじめ家内の者どもが燭を照らして駈けつけて見ると、床には幾個の死骸が横たわっていた。それをひと目見て、人々はおどろいて叫んだ。
「あなたは大変なことをなされました」
 倒れている死骸は、朱の妻や妾や、忰や娘であった。最後に斬られたのは従僕であったらしい。かれらは主人の安否を気づかって、ひそかに様子をうかがいに来たところを、片端から斬り倒されたのであろう。そう判ると、朱は声をあげて嘆いた。
「化け物め。すっかりおれを玩具《おもちゃ》にしやあがった」
 言うかと思うと、彼もそこに倒れたままで息が絶えた。

   水鬼の箒

 張鴻業《ちょうこうぎょう》という人が秦淮《しんわい》へ行って、潘《はん》なにがしの家に寄寓していた。その房《へや》は河に面したところにあった。
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