わたくしどもに取りましてあなたは命の親の大恩人でございます」
 そこで、だんだん聞いてみると、その一人はかの銭翁の娘で、他のふたりもやはり近所の良家の娘たちと判りました。李はこうして妖怪を退治して、不幸の娘たちを救ったのですが、何分にも深い穴の底に落ちているのですから、三人を連れて出る術《すべ》がありません。これには李も思案にくれているところへ、いずこよりとも知らず、幾人の老人があらわれて来ました。いずれも鬢《びん》の毛を長く垂れて、尖った口を持った人びとで、ひとりの白衣の老人を先に立てて、李の前にうやうやしく礼拝しました。
「われわれは虚星《きょせい》の精で、久しくここに住んで居りましたが、近ごろかの妖怪らのために多年の住み家を占領されてしまいました。しかも我々はそれに敵対するほどの力がないので、しばらくここを立ち退いて時節の来るのを待っていたのでございますが、今日あなたのお力によって、かれらがことごとく亡びましたので、こんな悦ばしいことはございません」
 老人らはその謝礼として、めいめいの袖の下から、金や珠《たま》のたぐいを取出して献《ささ》げました。
「おまえらもすでに神通力《じ
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