んつうりき》を具《そな》えているらしいのに、なぜかの妖怪どもに今まで屈伏していたのだ」と、李は訊きました。
「わたくしはまだ五百年にしかなりません」と、白衣の老人は答えました。「かの大猿はすでに八百年の劫《こう》を経て居ります。それで、残念ながら彼に敵することが出来なかったのでございます。しかし我々は人間に対して決して禍いをなすものではございません。かの兇悪な猿どもがたちまち滅亡したのは、あなたのお力とは申しながら、畢竟《ひっきょう》は天罰でございます」
「ここを申陽洞と名づけたのは、どういうわけだ」と、李はまた訊きました。
「猿は申《しん》に属します。それで、かれらが勝手にそんな名を付けたので、もとからの地名ではございません」
「おまえらがここへ帰り住むようになったらば、おれに出口を教えてくれ、礼物《れいもつ》などは貰うに及ばない。ただこの娘たちを救って出られればいいのだ」
「それはたやすいことでございます。半時のあいだ眼を閉じておいでなされば、自然にお望みが遂げられます」
 李はその通りにしていると、耳のはたには激しい雨風の声がしばらく聞えるようでしたが、やがてその声がやんだので眼
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