れ、争ってかの玄妙観へかけつけて、なんとかそれを取り鎮めてくれるように嘆願すると、魏法師は言いました。
「わたしのまじないは未然に防ぐにとどまる。もうこうなっては、わたしの力の及ぶ限りでない。聞くところによると、四明山《しめいざん》の頂上に鉄冠道人《てっかんどうじん》という人があって、鬼神を鎮める法術を能《よ》くするというから、それを尋ねて頼んでみるがよかろうと思う」
 そこで、大勢は誘いあわせて四明山へ登ることになりました。藤葛《ふじかずら》を攀《よ》じ、渓《たに》を越えて、ようやく絶頂まで辿りつくと、果たしてそこに一つの草庵があって、道人は几《つくえ》に倚り、童子は鶴にたわむれていました。大勢は庵の前に拝して、その願意を申し述べると、道人はかしらをふって、わたしは山林の隠士で、翌《あす》をも知れない老人である。そんな怪異を鎮めるような奇術を知ろう筈はない。おまえ方は何かの聞き違えで、わたしを買いかぶっているのであろうと言って、堅く断わりました。いや、聞き違えではない、玄妙観の魏法師の指図であると答えると、道人はさてはとうなずきました。
「わたしはもう六十年も山を下ったことがないのに
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