が撃ち殺されていた。そのなかで最も大きいのがかの大王で、先年逃げ去ったものであるらしい。かれらのたずさえて来た諸道具はみなほんとうの金銀宝玉を用いたものであるので、老女はそれを官に訴え出ると、それらは一種の贓品《ぞうひん》と見なして官庫に没収された。
 泰不華元帥《たいふかげんすい》はその当時|西台《せいたい》の御史《ぎょし》であったので、その事件の記録に朱書きをして、「鬼贓」としるした。鬼の贓品という意である。

   一寸法師

 元《げん》の至元年間の或る夜である。一人の盗賊が浙省の丞相府《じょうしょうふ》に忍び込んだ。
 月のうす明るい夜で、丞相が紗《しゃ》の帷《とばり》のうちから透かしてみると、賊は身のたけ七尺余りの大男で、関羽《かんう》のような美しい長い髯《ひげ》を生《は》やしていた。侍姫《じき》のひとりもそれを見て、思わず声を立てると、丞相は制した。
「ここは丞相の府だ。賊などが無暗にはいって来る筈がない」
 みだりに騒ぎ立てて怪我人でもこしらえてはならないという遠慮から、丞相は彼女を制したのである。賊はそのひまに、そこらにある金銀珠玉の諸道具を片端から盗んで逃げ去った。
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