》をくくっていたが、狐らはほんとうに樹を伐るつもりであるらしく、のこぎりで幹を伐るような音がきこえはじめた。そうして、釜の火を焚《た》け、油を沸かせと罵り合う声もきこえた。かれらは鉄をひきおとして油|煎《い》りにする計画であることが判ったので、彼も俄かに怖ろしくなったが、今更どうすることも出来ない。
「ともかくも樹にしっかりとかじり付いているよりほかはない。万一この樹が倒されたら、腰につけている斧《おの》で手当り次第に叩っ斬ってやろう」と、彼は度胸を据えていた。
幸いに何事もないうちに夜が明けかかったので、狐らはみな立ち去った。鉄もほっとして樹を降りると、幹にはのこぎりの痕《あと》らしいものも見えなかった。ただそこらに牛の肋骨《あばらぼね》が五、六枚落ちているのを見ると、かれらはこの骨をもってのこぎりの音を聞かせたらしい。
「畜生め。おれを化かして嚇《おど》かしゃあがったな。今にみろ」
かれは爆発薬を竹に巻き、別に火を入れた罐を用意して、今夜も同じところへ行くと、やはり二更に近づいた頃に、狐の群れが又あつまって来て樹の上にいる彼を罵った。それを黙って聴きながら、鉄は爆薬に火を移して
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