た。その夜の夢に一人の老人があらわれて、渡るべき舟がなければ私に付いて来いと言って、世祖を岸の辺まで案内して、ここから渡ることが出来ると指さして教えました。世祖はそこに何かの目標《めじるし》をつけて帰ったかと思うと夢が醒めました。そこで翌日、ゆうべの夢の場所へ行って、そこか此処《ここ》かと尋ねていると、一人の男が来て、ここから渡られますという。それでもまだ何だか不安心であるので、世祖はその男にむかって、それではお前がまず渡ってみろ、おれ達はそのあとに付いてゆこうと言いますと、男は直ぐに先に立って行きました。大軍は続いて行きますと、果たしてそのひと筋の水路は特別に浅いので、無事に渡り越すことが出来ました。軍《いくさ》が終った後、世祖はかの案内者に恩賞をあたえようとしますと、その男は答えて、わたくしは富貴を願いません。ただ、わが身の自在を得れば満足でありますと申し立てたので、答刺罕と書いて賜わったのでございます。云々《しかじか》」[#地から1字上げ](山居新話)
道士、潮を退く
宋《そう》の理宗《りそう》皇帝のとき、浙江《せっこう》の潮《うしお》があふれて杭《こう》州の都をおか
前へ
次へ
全20ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング