あるように見えたので、道士は喜んだ。
彼は法服に着かえ、鉄符をたずさえて舟に登った。大勢の人びとは岸にあつまって眺めていると、金の甲《よろい》を着た神者が彷彿《ほうふつ》として遠い空中に立っているのを見た。道士は法を修して、やがてその鉄符をなげうつと、鉄符は浪の上に躍ること幾回の後に沈んだ。暫くして一天俄かに晦《くら》く、霹靂《へきれき》一声、これで法を終った。
それから数日の後、別のところに沙《すな》の盛りあがること十数里、その上に一物《いちもつ》を発見した。それは海亀に似たもので、大きさは車輪のごとく、身には甲《こう》をつけて三つ足であった。これぞ世にいう「能《のう》」である。道士はその半分を剖《さ》いて、持ち帰って朝廷に献じた。
道士が塩官州へくだったのち、朝廷からさらに天師に命令があったので、天師も辞《いな》むことを得ずして起《た》った。天師が到着したのは四月十三日で、あたかも宋代の時と同日であるので、人びとも不思議に思った。但し道士の修法が成就して、潮はようやく退いた後であるので、攘《はら》いの祈祷をおこなった上に、堤を築き、宮を建てることにして帰った。[#地から1字上げ](隠居通議)
底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
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