癸辛雑識続集)
報寃蛇
南粤《なんえつ》の習いとして蠱毒呪詛《こどくじゅそ》をたっとび、それに因って人を殺し、又それによって人を救うこともある。もし人を殺そうとして仕損ずる時は、かえっておのれを斃《たお》すことがある。
かつて南中に遊ぶ人があって、日盛りを歩いて林の下に休んでいる時、二尺ばかりの青い蛇を見たので、たわむれに杖をもって撃つと、蛇はそのまま立ち去った。旅びとはそれから何だか体の工合いがよくないように感じられた。
その晩の宿に着くと、旅舎の主人が怪しんで訊いた。
「あなたの面《かお》には毒気があらわれているようですが、どうかなさいましたか」
旅人はぼんやりして、なんだか判《わか》らなかった。
「きょうの道中にどんな事がありましたか」と、主人はまた訊いた。
旅人はありのままに答えると、主人はうなずいた。
「それはいわゆる『報寃蛇《ほうえんだ》』です。人がそれに手出しをすれば、百里の遠くまでも追って来て、かならず其の人の心《むね》を噬《か》みます。その蛇は今夜きっと来るでしょう」
旅人は懼《おそ》れて救いを求めると、主人は承知して、龕《がん》のなかに供えてあ
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