]《おんきょう》が牛渚《ぎゅうしょ》をうかがって禍いを招いたためしもあります。もういい加減にして免《ゆる》してください」
化け物のいうにも一応の理屈はあるとさとって、公は水をもって洗ってやると、その手はだんだんに縮んで消え失せた。
公は果たして後に少保の高官に立身したのであった。[#地から1字上げ](同上)
張鬼子
洪州の州学正《しゅうがくせい》を勤めている張《ちょう》という男は、元来|刻薄《こくはく》の生まれ付きである上に、年を取るに連れてそれがいよいよ激しくなって、生徒が休暇をくれろと願っても容易に許さない。学官が五日の休暇をあたえると、張はそれを三日に改め、三日の休暇をあたえると二日に改めるというふうで、万事が皆その流儀であるから、諸生徒から常に怨まれていた。
その土地に張鬼子《ちょうきし》という男があった。彼はその風貌が鬼によく似ているので、鬼子という渾名《あだな》を取ったのである。
そこで、諸生徒は彼を鬼に仕立てて、意地の悪い張学正をおどしてやろうと思い立って、その相談を持ち込むと、彼は慨然《がいぜん》として引き受けた。
「よろしい。承知しました。しかし無
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