骸はこれで判ったが、賊のありかはどこだ」
 犬は又かれらを村民の住み家に案内したので、賊の一党はみな召捕られた。[#地から1字上げ](同上)

   窓から手

 少保《しょうほ》の馬亮公《ばりょうこう》がまだ若いときに、燈下で書を読んでいると、突然に扇のような大きい手が窓からぬっと出た。公は自若《じじゃく》として書を読みつづけていると、その手はいつか去った。
 その次の夜にも、又もや同じような手が出たので、公は雌黄《しおう》の水を筆にひたして、その手に大きく自分の書き判を書くと、外では手を引っ込めることが出来なくなったらしく、俄かに大きい声で呼んだ。
「早く洗ってくれ、洗ってくれ、さもないと、おまえの為にならないぞ」
 公はかまわずに寝床にのぼると、外では焦《じ》れて怒って、しきりに洗ってくれ、洗ってくれと叫んでいたが、公はやはりそのままに打ち捨てて置くと、暁け方になるにしたがって、外の声は次第に弱って来た。
「あなたは今に偉くなる人ですから、ちょっと試《ため》してみただけの事です。わたしをこんな目に逢わせるのは、あんまりひどい。晋《しん》の温※[#「山+喬」、第3水準1−47−89
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