塊かの骨片を貰って来て、それを葬ることにした。[#地から1字上げ](茅亭客話)

   霊鐘

 陳述古《ちんじゅつこ》が建《けん》州|浦城《ほじょう》県の知事を勤めていた時、物を盗まれた者があったが、さてその犯人がわからなかった。そこで、陳は欺いて言った。
「かしこの廟には一つの鐘があって、その霊験《れいげん》あらたかである」
 その鐘を役所のうしろの建物に迎え移して、仮りにそれを祀《まつ》った。彼は大勢の囚人を牽《ひ》き出して言い聞かせた。
「みんな暗い所でこの鐘を撫でてみろ。盗みをしない者が撫でても音を立てない。盗みをした者が手を触るればたちまちに音を立てる」
 陳は下役の者どもを率《ひき》いて荘重な祭事をおこなった。それが済んで、鐘のまわりに帷《とばり》を垂れさせた。彼はひそかに命じて、鐘に墨を塗らせたのである。そこで、疑わしい囚人を一人ずつ呼び入れて鐘を撫でさせた。
 出て来た者の手をあらためると、みな墨が付いていた。ただひとり黒くない手を持っている者があったので、それを詰問《きつもん》すると果たして白状した。彼は鐘に声あるを恐れて、手を触れなかったのである。
 これは昔からの法で、小説にも出ている。[#地から1字上げ](夢渓筆談)



底本:「中国怪奇小説集」光文社文庫、光文社
   1994(平成6)年4月20日初版1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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