法を施したから、かれももうどうすることも出来まい」
僧は水を索《もと》めて噴きかけると、神授はたちまち小さい朱《あか》い蛇に変った。僧は瓶《かめ》をとって神授の名を呼ぶと、蛇は躍ってその瓶のうちにはいった。呆れている宗の夫婦をあとに見て、僧は笠を深くして立ち去った。
蛇薬
徽《き》州|懐金郷《かいきんごう》の程彬《ていひん》という農民は、一種の毒薬を作って暴利をむさぼっていた。
それはたくさんの蛇を殺して土中にうずめ、それに苫《とま》をかけて、常に水をそそいでいると、毒気が蒸れてそこに怪しい蕈《きのこ》が生える。それを乾かして、さらに他の薬をまぜ合わせるのである。しかし最初に生えた蕈は、その毒があまりに猛烈で、食えばすぐに死んでしまうので、後日《ごにち》の面倒を恐れて用いず、多くは二度目に生えたのを用いて、徐々に斃《たお》れさせるのであった。
その毒をためすには、蛙《かわず》に食わせてみるのである。蛙が多く躍り狂えば、その毒の効き目が多いということになっている。その薬の名は万歳丹《まんざいたん》と称していたが、万歳どころか、実は人の命をちぢめる大毒薬で、何かの復讐など
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