、かの卒を見知り人にして、他の役人らが付き添って、近所の廟をたずね廻らせると、城隍廟《じょうこうびょう》のうちに大小の土人形がならんでいる。その顔や形がそれらしいというので、試みに一つの人形の腹を毀《こわ》してみると、果たして銀があらわれた。つづいて他の人形を打ち砕くと、皆その腹に銀をたくわえていた。さらに足の下の土をほり返すと、土の中からもたくさんの銭《ぜに》が出た。
卒が貰った銭と、掘り出した銀と銭とを合算すると、あたかも紛失の金高に符合しているので、もう疑うところはなかった。
土人形は片っ端から打ち毀《こわ》された。その以来、怪しい賭博者は影をかくした。
野象の群れ
宋の乾道《けんどう》七年、縉雲《しんうん》の陳由義《ちんゆうぎ》が父をたずねるために※[#「門<虫」、第3水準1−93−49]《みん》より広《こう》へ行った。その途中、潮《ちょう》州を過ぎた時に、土人からこんな話を聞かされた。
近年のことである。恵《けい》州の太守が一家を連れて、福《ふく》州から任地へ赴《おもむ》く途中、やはりこの潮州を通りかかると、元来このあたりには野生の象が多くて、数百頭が群れをなしている。時あたかも秋の刈り入れ時であるので、土地の農民らは象の群れに食いあらされるのを恐れて、その警戒を厳重にし、田と田のあいだに陥穽《おとしあな》を設けて、かれらの進入を防ぐことにしたので、象の群れは遠く眺めているばかりで、近寄ることが出来なかった。
かれらは腹立たしそうに唸っていたが、やがて群れをなして太守の一行を取り囲んだ。一行には二百人の兵が付き添っていたが、幾百という野象に囲まれては身動きも出来ない。なんとか賺《すか》して逐《お》いやろうとしても、かれらはなかなか立ち去らないで、一行を包囲すること半日以上にも及んだので、一行ちゅうの女子供は途方にくれた。そのなかには恐怖のあまりに気を失う者もできた。
こうなると、土地の者も見捨てては置かれないので、大勢が稲をになって来てその四方に積んだ。最初のうちは象も知らぬ顔をしていたが、だんだんにたくさん運ばれて、自分たちの食うには十分であることを見きわめた時に、かれらは初めて囲みを解いて、その稲を盛んに食いはじめた。かれらは太守の一行を人質《ひとじち》にして、自分たちの食料を強要したのである。
野獣の智、まことに及ぶべからずと
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