、家内が余りに森閑《しんかん》としているので、周はなんだかぞっ[#「ぞっ」に傍点]としたような心持になりました。夜があけて、暇乞いをして出ようと思いましたが、いくら呼んでも返事をする者がありません。
 いよいよ不思議に思って、戸を壊《くず》してはいってみると、家内にはたくさんの死体が重なっていて、大抵はもう骸骨になりかかっていました。そのなかで、女の死体は死んでから十日《とおか》を越えまいと思われました。妹の顔はもう骨になっていました。ゆうべの二枚の餅はめいめいの胸の上に乗せてありました。
 周は後に、かれらの死体をみな埋葬してやったそうです。

   鬼兄弟

 軍将の陳守規《ちんしゅき》は何かの連坐《まきぞえ》で信州へ流されて、その官舎に寓居することになりました。この官舎は昔から凶宅と呼ばれていましたが、陳が来ると直ぐに鬼物《きぶつ》があらわれました。
 鬼《き》は昼間でも種々の奇怪な形を見せて変幻出没するのでした。しかも陳は元来剛猛な人間であるのでちっとも驚かず、みずから弓矢や刀を執って鬼と闘いました。それが暫く続いているうちに、鬼は空ちゅうで語りました。
「わたしは鬼神であるか
前へ 次へ
全24ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング