ら、人間と雑居するのを好まないのである。しかし君は堅固な人物であるから、兄分として交際したいと思うが、どうだな」
「よろしい」と、陳も承知しました。
 その以来、陳と鬼とは兄弟分の交際を結ぶことになりました。何か吉凶のことがあれば、鬼がまず知らせてくれる。鬼が何か飲み食いの物を求めれば、陳があたえる。鬼の方からも銭や品物をくれる。しかし長い間には、陳もその交際が面倒になって来ました。そこで、ある道士にたのんで、訴状をかいて上帝に捧げました。鬼の退去を出願したのです。
 すると、その翌日、鬼は大きい声で呶鳴りました。
「おれはお前と兄弟分になったのではないか。そのおれを何で上帝に訴えたのだ。男同士の義理仁義はそんなものではあるまい」
「そんな覚えはない」と、陳は言いました。
 嘘をつけとばかりに、空中から陳の訴状を投げ付けて、鬼はまた罵りました。
「お前はおれの居どころがないと思っているのだろうが、おれは今から蜀川《しょくせん》へ行く。二度とこんな所へ来るものか」
 鬼はそれぎりで跡を絶ったそうです。



底本:「中国怪奇小説集」光文社
   1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全12ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング