ままで奔《はし》り避けた。やがて巌穴のなかでは雷の吼えるような声がして、大蛇《だいじゃ》は躍り出てのたうち廻ると、数里のあいだの木も草も皆その毒気に焼けるばかりであった。蛇は狂い疲れて、日の暮れる頃に仆《たお》れた。
それから穴のあたりを窺うと、そこには象の骨と牙とが、山のように積まれていた。十頭の象があらわれて来て、その長い鼻で紅《あか》い牙一枚ずつを捲いて蒋に献じた。それを見とどけて、猩々も別れて去った。蒋は初めの象に牙を積んで帰ったが、後にその牙を売って大いに資産を作った。[#地から1字上げ](伝奇)
笛師
唐の天宝の末に、安禄山《あんろくざん》が乱をおこして、潼関《どうかん》の守りも敗れた。都の人びとも四方へ散乱した。梨園《りえん》の弟子《ていし》のうちに笛師《ふえし》があって、これも都を落ちて終南山《しゅうなんざん》の奥に隠れていた。
そこに古寺があったので、彼はそこに身を忍ばせていると、ある夜、風清く月明らかであるので、彼はやるかたもなき思いを笛に寄せて一曲吹きすさむと、嚠喨《りゅうりょう》の声は山や谷にひびき渡った。たちまちにそこへ怪しい物がはいって来た。
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