術を知らないので、それを用いることが出来なかった。
 趙はその驢馬に乗って四方を遍歴したが、かつて一度もあやまちなく、馬は一日に百里を歩《あゆ》んだ。それから四年の後、彼は関に入って、華岳廟《かがくびょう》の東五、六里のところへ来ると、路ばたに一人の老人が立っていて、それを見ると手を拍《う》って笑った。
「板橋の三娘子、こんな姿になったか」
 老人はさらに趙にむかって言った。
「かれにも罪はありますが、あなたに逢っては堪まらない。あまり可哀そうですから、もう赦《ゆる》してやってください」
 彼は両手で驢馬の口と鼻のあたりを開くと、三娘子はたちまち元のすがたで跳り出た。彼女は老人を拝し終って、ゆくえも知れずに走り去った。[#地から1字上げ](幻異志)



底本:「中国怪奇小説集」光文社
   1994(平成6)年4月20日第1刷発行
※校正には、1999(平成11)年11月5日3刷を使用しました。
入力:tatsuki
校正:小林繁雄
2003年7月31日作成
青空文庫作成ファイル:
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