を見ると、よほど由緒のあるものに相違ありません。松林をはいって二百歩ほども進んでゆくと、その塚の前に出ました。生い茂った草のなかに大きい碑が倒れていましたが、その碑はもう磨滅《まめつ》していて、なんと彫ってあるのか判りませんでした。ともかくも五、六十丈ほども深く掘って行くと、一つの石門がありまして、その周囲《まわり》は鉄汁をもって厳重に鋳固めてありました」
「それをどうして開いた」
「人間の糞汁《ふんじゅう》を熱く沸かして、幾日も根《こん》よく沃《そそ》ぎかけていると、自然に鉄が溶けるのです。そうして、ようようのことで、その石門をあけると驚きました。内からは雨のように箭《や》を射出して来て、たちまち五、六人を射倒されたので、みな恐れて引っ返そうとしましたが、わたくしは肯《き》きませんでした。ほかに機関《からくり》があるわけではないから、あらん限りの箭を射尽くさせてしまえば大丈夫だというので、こちらからも負けずに石を投げ込みました。内と外とで箭と石との戦いが暫く続いているうちに果たして敵の矢種《やだね》は尽きてしまいました。
 それから松明《たいまつ》をつけて進み入ると、行く手に又もや第二の門があって、それは訳なく明きましたが、門の内には木で作った人が何十人も控えていて、それが一度に剣をふるったから堪《た》まりません。さきに立っていた五、六人はここで又斬り倒されました。こちらでも棒をもってむやみに叩き立てて、その剣をみな撃ち落した上で、あたりを見まわすと、四方の壁にも衛兵の像が描いてあって、南の壁の前に大きい漆《うるし》塗りの棺が鉄の鎖《くさり》にかかっていました。棺の下には金銀や宝玉のたぐいが山のように積んである。さあ見付けたぞとは言ったが、前に懲《こ》りているので、迂闊《うかつ》に近寄る者もなく、たがいに顔をみあわせていると、俄かに棺の両角から颯々《さっさつ》という風が吹き出して、沙《すな》を激しく吹きつけて来ました。あっ[#「あっ」に傍点]と言ううちに、風も沙もますます激しくなって、眼口《めくち》を明けていられないどころか、地に積む沙が膝を埋めるほどに深くなって来たので、みな恐れて我れ勝《が》ちに逃げ出しましたが、逃げおくれた一人は又もや沙のなかへ生け埋めにされました。
 外へ逃げ出して見かえると、門は自然に閉じて、再びはいることは出来なくなっています。たといは
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