取ろうとした。この寺ではかねて供養に用いる諸道具を別室に蔵《おさ》めてあったので、賊はその室《へや》の戸を打ち毀《こわ》して踏み込むと、忽ちに法衣《ころも》を入れてある革籠《かわご》のなかから幾万匹の蜜蜂が飛び出した。その幾万匹が一度に群がって賊を螫《さ》したので、かれらも狼狽した。ある者は体じゅうを螫され、ある者は眼を突きつぶされ、初めに掠奪した獲物をもみな打ち捨てて、転げまわって逃げ去った。

   犬妖

 林慮山《りんりょざん》の下に一つの亭がある。ここを通って、そこに宿る者はみな病死するということになっている。あるとき十余人の男おんなが入りまじって博奕《ばくち》をしているのを見た者があって、かれらは白や黄の着物をきていたと伝えられた。
 ※[#「至+おおざと」、第3水準1−92−67]伯夷《しつはくい》という男がそこに宿って、燭《しょく》を照らして経《きょう》を読んでいると、夜なかに十余人があつまって来て、彼と列《なら》んで坐を占めたが、やがて博奕の勝負をはじめたので、※[#「至+おおざと」、第3水準1−92−67]はひそかに燭をさし付けて窺うと、かれらの顔はみな犬であった。
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