「あなたは困ったものです」と、彼は愁《うれ》うるが如くに言った。「再びここへ来てはならないと、わたくしがあれほど戒《いまし》めて置いたのに、それを用いないで又来るとは……。仇の子がもう成長していますから、きっとあなたに復讐するでしょう。それはあなたのみずから求めた禍いで、わたくしの知ったことではありません」
 言うかと思うと、彼は消えるように立ち去ったので、猟師は俄かに怖ろしくなって、早々にここを逃げ去ろうとすると、たちまちに黒い衣《きぬ》をきた者三人、いずれも身のたけ八尺ぐらいで、大きい口をあいて向かって来たので、猟師はその場に仆《たお》れてしまった。

   白亀

 東晋の咸康《かんこう》年中に、予《よ》州の刺史毛宝《ししもうほう》が※[#「朱+おおざと」、第3水準1−92−65]《しゅ》の城を守っていると、その部下の或る軍士が武昌《ぶしょう》の市《いち》へ行って、一頭の白い亀を売っているのを見た。亀は長さ四、五|寸《すん》、雪のように真っ白で頗《すこぶ》る可愛らしいので、彼はそれを買って帰って甕《かめ》のなかに養って置くと、日を経るにしたがって大きくなって、やがて一尺ほどに
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