帯を締めています、わたくしは白の帯をしめています」
 猟師は承知すると、かの男はよろこんで帰った。そこで、あくる日、約束の時刻に行ってみると、果たして渓《たに》の北方から風雨《あらし》のような声がひびいて来て、草も木も皆ざわざわとなびいた。南の方も同様である。やがて北からは黄いろい蛇、南からは白い蛇、いずれも長さ十余|丈《じょう》、渓の中ほどで行き合って、たがいに絡み合い咬み合って戦ったが、白い方の勢いがやや弱いようにみえた。約束はここだと思って、猟師は黄いろい蛇を目がけて矢を放つと、蛇は見ごとに急所を射られて斃《たお》れた。
 夜になると、咋夜の男が又たずねて来て、彼に厚く礼をのべた。
「ここに一年とどまって猟をなされば、きっとたくさんの獲物があります。ただし来年になったらばお帰りなさい。そうして、再びここへ来てはなりません」と、男は堅く念を押して帰った。
 なるほど其の後は大いなる獲物があって、一年のあいだに彼は莫大の金儲けをすることが出来た。それでいったんは山を降って、無事に五、六年を送ったが、昔の獲物のことを忘れかねて、あるとき再びかの山中へ猟にゆくと、白い帯の男が又あらわれた
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