があった。

   寿光侯

 寿光侯《じゅこうこう》は漢の章帝《しょうてい》の時の人である。彼はあらゆる鬼を祈り伏せて、よくその正体を見あらわした。その郷里のある女が妖魅《ようみ》に取りつかれた時に、寿は何かの法をおこなうと、長さ幾丈の大蛇《だいじゃ》が門前に死んで横たわって、女の病いはすぐに平癒した。
 また、大樹があって、人がその下に止まると忽ちに死ぬ、鳥が飛び過ぎると忽ちに墜《お》ちるというので、その樹には精《せい》があると伝えられていたが、寿がそれにも法を施すと、盛夏《まなつ》にその葉はことごとく枯れ落ちて、やはり幾丈の大蛇が樹のあいだに懸《かか》って死んでいた。
 章帝がそれを聞き伝えて、彼を召し寄せて事実の有無をたずねると、寿はいかにも覚えがあると答えた。
「実は宮中に妖怪があらわれる」と、帝は言った。「五、六人の者が紅い着物をきて、長い髪を振りかぶって、火を持って徘徊《はいかい》する。お前はそれを鎮めることが出来るか」
「それは易《やす》いことでございます」
 寿は受けあった。そこで、帝は侍臣三人に言いつけて、その通りの扮装をさせて、夜ふけに宮殿の下を往来させると、寿は
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