るが、どうだ」
「よろしい。お頼み申す」
眉間尺はすぐに我が手でわが首をかき落して、両手に首と剣とを捧げて突っ立っていた。
「たしかに受取った」と、男は言った。「わたしは必ず約束を果たしてみせる」
それを聞いて、眉間尺の死骸は初めて仆《たお》れた。
旅の男はそれから楚王にまみえて、かの首と剣とを献じると、王は大いに喜んだ。
「これは勇士の首であるから、この儘《まま》にして置いては祟《たた》りをなすかも知れません。湯※[#「獲」の「けものへん」に代えて「金へん」、第3水準1−93−41]《ゆがま》に入れて煮るがよろしゅうござる」と、男は言った。
王はその言うがままに、眉間尺の首を煮ることにしたが、三日を過ぎても少しも爛《ただ》れず、生けるが如くに眼を瞋《いか》らしているので、男はまた言った。
「首はまだ煮え爛れません。あなたが自身に覗《のぞ》いて卸覧になれば、きっと爛れましょう」
そこで、王はみずから其の湯を覗きに行くと、男は隙《すき》をみてかの剣をぬき放し、まず王の首を熱湯《にえゆ》のなかへ切り落した。つづいて我が首を刎《は》ねて、これも湯のなかへ落した。眉間尺の首と、楚王の
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