があった。
寿光侯
寿光侯《じゅこうこう》は漢の章帝《しょうてい》の時の人である。彼はあらゆる鬼を祈り伏せて、よくその正体を見あらわした。その郷里のある女が妖魅《ようみ》に取りつかれた時に、寿は何かの法をおこなうと、長さ幾丈の大蛇《だいじゃ》が門前に死んで横たわって、女の病いはすぐに平癒した。
また、大樹があって、人がその下に止まると忽ちに死ぬ、鳥が飛び過ぎると忽ちに墜《お》ちるというので、その樹には精《せい》があると伝えられていたが、寿がそれにも法を施すと、盛夏《まなつ》にその葉はことごとく枯れ落ちて、やはり幾丈の大蛇が樹のあいだに懸《かか》って死んでいた。
章帝がそれを聞き伝えて、彼を召し寄せて事実の有無をたずねると、寿はいかにも覚えがあると答えた。
「実は宮中に妖怪があらわれる」と、帝は言った。「五、六人の者が紅い着物をきて、長い髪を振りかぶって、火を持って徘徊《はいかい》する。お前はそれを鎮めることが出来るか」
「それは易《やす》いことでございます」
寿は受けあった。そこで、帝は侍臣三人に言いつけて、その通りの扮装をさせて、夜ふけに宮殿の下を往来させると、寿は式《かた》の如くに法をおこなって、たちまちに三人を地に仆した。かれらは気を失ったのである。
「まあ、待ってくれ」と、帝も驚いて言った。「かれらはまことの妖怪ではない。実はおまえを試してみたのだ。殺してくれるな」
寿が法を解くと、三人は再び正気に復《かえ》った。
天使
糜竺《びじく》は東海の※[#「月+句」、第3水準1−90−42]《く》というところの人で、先祖以来、貨殖《かしょく》の道に長《た》けているので、家には巨万の財をたくわえていた。
あるとき彼が洛陽《らくよう》から帰る途中、わが家に至らざる数十里のところで、ひとりの美しい花嫁ふうの女に出逢った。女はその車へ一緒に載せてくれと頼むので、彼は承知して載せてゆくと、二十里ばかりの後に女は礼をいって別れた。そのときに彼女は又こんなことをささやいた。
「実はわたしは天の使いで、これから東海の糜竺の家を焼きに行くのです。ここまで載せて来て下すったお礼に、それだけのことを洩らして置きます」
糜はおどろいて、なんとか勘弁してくれるわけには行くまいかとしきりに嘆願すると、女は考えながら言った。
「何分にもわたしの役目ですから、
前へ
次へ
全19ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング