く吊り下げてあった。
疲れている堀部君は暖かい寝床の上でいい心持に寝てしまったが、自分の頭の上にある窓の戸を強くゆするような音におどろかされて眼を醒ました。部屋のうちは真っ暗で、細い火縄の火が秋の蛍のように微かに消え残っているばかりである。むこう側の寝床の上には、李太郎が鼾《いびき》を立てて寝入っているらしかった。耳をすまして窺うと、家のうちはしィんとして鼠の走る音も聞えなかったが、表の吹雪はいよいよ吹き暴れて来たらしく、浪のような音を立ててごうごうと吹き寄せていた。窓の戸の揺れたのはこの雪風であることを堀部君はすぐに覚《さと》った。満洲の雪の夜、その寒さと寂しさとには馴れていながらも、堀部君はなんだか眼がさえて再び寝つかれなくなった。
床の上に起き直って、堀部君はマッチをすって、懐中時計を照らしてみると、今夜はもう十二時に近かった。ついでに巻煙草をすいつけて、その一本をすい終った頃に、烈しい吹雪はまたどっと吹き寄せて来て、窓の戸を吹き破られるかと思うように、がたがたとあおられた。宵の話を思い出して、かの雪女が闖入《ちんにゅう》して来る時には、こんな物音がするかも知れないなどと堀部
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