は、髪や髭は伸び、頬は落ち、眼は窪んで、にわかに十年も年を取ったように見えたそうですが、それでもその眼は生きいきと光りかがやいていました。モデルの少年も馬もみな元気がいいので、黒太夫一家でもまず安心しました。出来あがった木馬はもちろん、その手綱を控えている馬飼のすがた形もまったくモデルをそのままで、さながら生きているようにも見えたので、それを見た人々はみな感嘆の声をあげたそうです。
黒太夫も大層よろこんで手厚い礼物《れいもつ》を贈ると、祐慶は辞退して何にも受取らない。彼は自分の長く伸びた髭をすこし切って、これをそこらの山のなかに埋めて、小さい石を立てておいてくれ、別に誰の墓ともしるすに及ばないと、こう言いおいて早々にここを立去ってしまいました。不思議なことだとは思ったが、その言う通りにして小さい石の標《しるし》を立て、誰が言い出したともなしにそれを髭塚と呼ぶようになりました。
そこで、吉日を選んでかの木馬を社前に据えつける事になったのは十二月の初めで、近村の者もみな集まるはずにしていると、その前夜の夜半からにわかに雪がふり出しました。ここらで十二月に雪の降るのは珍しくもないのですが
前へ
次へ
全256ページ中242ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング