しい。したがってその病気全快というのもなんだか疑わしいので、庄屋もその返事に渋っているところへ、あたかもかの蛇吉が催促に来て、まだなんにも心当りはないかと言った。
嫁にやりたいという人、嫁を貰いたいという人、それが同時に落ち合ったのは何かの縁かも知れないと思ったので、庄屋はともかくもその話を切出してみると、蛇吉は二つ返事で何分よろしく頼むと答えた。女は三十七で自分よりも五つ年上であること、女は茶屋奉公のあがりで悪い病気のあること、それらをすべて承知の上で自分の嫁に貰いたいと彼は言った。
こうなれば、もう子細はない。話はすべるように進行して、それから更に半月とは過ぎないうちに、蛇吉の家には年増《としま》の女房が坐り込んでいるようになった。女房の名はお年《とし》というのであった。
庄屋の疑っていた通り、お年はまだほんとうに全快しているのではなかった。無理に起きてはいるものの、お年は真っ蒼な顔をして幽霊のように痩せ衰えていた。よんどころない羽目で世話をしたものの、あれで無事に納まってくれればいいがと、庄屋も内々心配していると、不思議なことには、それからまた半月と過ぎ、ひと月と過ぎてゆく
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