をしてくれる。まったく気の毒なくらいでした。
日が暮れてから横田君はわたしの座敷へ来て、夜のふけるまで話していましたが、そのうちに横田君はこんなことを言い出しました。
「どうもこの近所には写真の題になるようないい景色のところもありません。しかし折角おいでになったのですから、何か変ったところへ御案内したい。これから五里半以上、やがて六里ほどもはいったところに龍馬の池というのがあります。少し遠方ですが、途中までは乗合馬車がかよっていますから、歩くところはまず半分ぐらいでしょう。どうです、一度行って御覧になりませんか。」
「わたしは旅行馴れていますから、少しぐらい遠いのは驚きません。そこで、その龍馬の池というのは景色のいいところなんですか。」
「景色がいいというよりも、大きい木が一面に繁っていて、なんだか薄暗いような、物凄いところです。昔は非常に大きい池だったそうですが、今ではまあ東京の不忍池《しのばずのいけ》よりも少し広いくらいでしょう。遠い昔には龍が棲んでいた。――おそらく大きい蛇か、山椒《さんしょう》の魚《うお》でも棲んでいたのでしょうが、ともかくも龍が棲んでいたというので、昔は龍の池と呼んでいたそうですが、それが中ごろから転じて龍馬の池ということになったのです。それについて一種奇怪の伝説が残っています。今度あなたを御案内したいというのも、実はそのためなのですが……。あなたはお疲れでお眠くはありませんか。」
「いえ、わたしは夜ふかしをすることは平気です。その奇怪な伝説というのはどんなことですか。」と、わたしも好奇心をそそられて訊きました。
「さあ、それをお話し申しておかないと、御案内の価値がないようなことにもなりますから、一応はお耳に入れておきたいと思います。」
今夜も十時を過ぎて、庭には鳴き弱ったこおろぎ[#「こおろぎ」に傍点]の声がきこえる。九月の末でも、ここらでは火鉢を引寄せたいくらいの夜寒《よさむ》が人に迫ってくるように感じられました。横田君は一と息ついて、さらにその龍馬の池の秘密を説きはじめました。
「なんでも奥州の秀衡《ひでひら》の全盛時代だといいますから、およそ八百年ほどもまえのことでしょう。かの龍の池から一町あまりも離れたところに、黒太夫という豪農がありました。九郎というのではなく、黒と書くのだそうです。御承知の通り、奥州は馬の産地で、近所の三春
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