の穴に落ちて転ぶ。李は銅鑼を柳に渡し、探り寄って男を押えつける。)
李中行 さあ、泥坊をおさえたぞ。
(中二も這い寄って男をおさえる。男は跳ね起きようとするを二人は必死となって捻じ付ける。柳もむやみに銅鑼を打つ。)
李中行 (叫ぶ。)泥坊だ、泥坊だ……。誰か来てくれ。
柳 (叫ぶ。)どろぼうだ……。泥坊だ……。
(下のかたより高田圭吉、シャツ一枚にてズボンの裾をまくり上げ、跣足《せんそく》にて走り出づ。雨の音。銅鑼の音。夫婦の叫ぶ声。)
高田 泥坊はこっちですか。銅鑼やピストルの音が聞えたようだが……。
李中行 ここですよ、ここですよ。
(高田は窓の破れたるを見て、そこより内へ飛び込む。このとき男はようよう跳ねかえして逃げかかり、出逢いがしらに高田に突きあたる。二人は無言にて格闘。高田は遂に男を組み伏せる。)
高田 早く燈火《あかり》をみせて下さい。
(李はすぐに寝室へ引返してゆく。柳もつづいて入る。男は跳ね返そうとするを、高田はおさえている。中二は倒れたままで唸っている。やがて李は蝋燭をとぼして出づ。)
李中行 つかまえましたか。
高田 つかまえました。早く縄を下さい。
(李は土間の
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