ったようだ。
(高田はふらふらと寝室に入る。中二は同情するように見送る。そのうちに柳は声を立てて泣き出すので、中二は進み寄ってその肩に手をかける。)
中二 阿母さん。もう泣いても仕様がありません。これも運命――これもよんどころない災難とあきらめて、妹の死んだ跡を弔って遣るより外はありませんよ。工場の方でも相当の金をくれるそうですから、それで立派な葬式をして遣りましょう。それがせめてもの追善《ついぜん》ですよ。
柳 (又泣く。)金をくれる……。金を幾ら呉れたところで、娘の命が買えるものか。(喰ってかかるように。)若い者のくせに、お前が意気地がないからだ。なぜ工場の奴等にもっと[#「もっと」に傍点]厳しく掛合って遣らないのだ。唯《た》った一人の妹を殺されて、黙っている奴があるものか。
中二 でも、粗相で死んだのですからね。誰が悪いと云うわけでもない。今もいう通り、これも拠《よんどこ》ろない災難と諦めるの外はありませんよ。ねえ、お父さんも諦めてください。
李中行 まったく諦めるより外はないが……。これ、中二、おれはどうも気にかかってならない事がある。娘は自分の方から機械のそばへ寄って行って、
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