でしょう。あなたのお店もなかなか繁昌するそうですね。
中二 ひどく繁昌という程でもありませんが、不景気の時節としては、まあ、まあ、好い方でしょう。なにしろ書物をよむ人が殖えましたからね。
(中二は高田に杯をさせば、阿香が酌をする。)
高田 あなたのお店は日本人の経営とはいいながら、日本の書物のほかに、支那の書物も売るんだから、どうしても繁昌するわけですよ。
中二 支那の書物も、このごろは上海版の廉《やす》いものが続々発行されるので、自然買い手も多いんです。
高田 上海版といえば、捜神記の廉いのは来ていませんかね。活版本でも好いんですが……。
中二 調べてみましょう。たしか来ている筈です。あなたは捜神記のような本をお読みになるんですか。
高田 わたしも此頃は支那の怪談に興味を持つようになって、覚束ないながらも拾い読みをしているんですよ。日本に有り来りの怪談は、大てい支那から輸入されているんですからね。
中二 わたしは日本の怪談を知りませんが、支那から渡ったものが多いんですか。
高田 日本国有の怪談は少い。大抵はこっちが本家本元ですよ。
(このあいだに、李は卓にうつ伏して、うとうとと眠り始
前へ 次へ
全69ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング