それやこれやを考えると、どうしても纏まった金をこしらえて置かないと安心が出来ないのだ。
旅の男 御もっともです。
李中行 お前さんも尤もだと思うなら、私があらためて頼みます。幸い今夜は十五夜で、酒も肉も用意してあるから、それを青蛙神にそなえて、わたしに纏まった金を授けて下さるように祈っては下さるまいか。
旅の男 わたしが祈るのではない。おまえさんが自分で祈るのです。
李中行 では、わたしに祈らせて下さい。
柳 もし、お前さん……。(再び袖をひく。)
李中行 まあ、いいと云うのに……。(男に。)もし、どうぞ願います。
旅の男 本来ならば唯で拝ませることは出来ない。私にも相当のお賽銭をそなえて貰わなければ困るのだが、余人とちがって、お前さん達には色々の御世話にもなっているから、唯で拝ませてあげましょう。
李中行 (熱心に。)拝ませて下さるか。ありがたい、有難い。
柳 (不安らしく。)お前さん、そんなことは……。
李中行 うるさいな。まあ、なんでもいいから俺に任かせて置け。
(男は腰につけたる巾着より鍵をとり出して、箱の錠をあける。そうして、口のうちにて何か呪文を唱えると、箱のうちより三足の
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