そうかも知れませんね。やっぱりあなたの方が現代人らしい。(又もや歩きまわりながら、思い出したように腕時計をみる。)ああ、いつまでもお饒舌《しゃべり》をしてしまった。じゃあ、今夜はもうこれでお暇《いとま》しましょう。
中二 まだなかなか降っているようだが、傘を持っていますか。
高田 なに、近い所ですから……。
中二 まあ、これを持っておいでなさい。(自分の洋傘を取って渡す。)
高田 じゃあ、ちょいと拝借して行きます。お休みなさい。
中二 おやすみなさい。
(高田は洋傘をさして表へ出で、下のかたへ去る。雨の音。)
中二 よく降るな。起きていても仕様がない。私も今夜は早寝をするかな。
(中二はランプを持ちて寝室に入る。舞台は暗くなる。)
 舞台は再び薄明るくなる。雨の音。
(先刻の男二人は下のかたの窓を破りて忍び入りと覚しく、第一の男は手に火縄を振り、第二の男はマッチを持っている。)
第一の男 戸締りがなかなか厳重なので、手間が取れた。
第二の男 泊り込んで仕事をしようと思ったのだが、おやじめ、油断をしないので困った。
第一の男 (小声で。)ここらか。(火縄を振る。)
第二の男 むむ。おれは確に見て置いた。(マッチを擦る。)おやじはこの土間のまん中に埋めていたのだ。
第一の男 音のしないように邪魔な物を片付けろ。だが、こんな家に大金が仕舞ってあろうとは思いも付かないことだな。
第二の男 それも娘の死んだお蔭だ。
(二人はそっと榻《とう》を片寄せ、更に卓を片寄せる。それから壁の隅にある鋤と鍬のたぐいを持ち来りて、卓の下と思われるあたりを掘り始める。)
第二の男 どうも暗いな。
第一の男 おれが火縄を振っているから、お前ひとりで掘れ。
(第一の男は火縄をふり第二の男は土を掘る。)
第二の男 占めた。鍬の先にがちり[#「がちり」に傍点]と中《あた》った。
第一の男 これ、静《しずか》にしろ。
第二の男 おまえも手をかして呉れ。
(二人は土の中より一つの瓶を重そうに引き上げる。寝室の扉をあけて、中二は窺っている。)
第一の男 なかなか重いな。
第二の男 なにしろ三千|両《テール》以上の金が這入《はい》っているのだからな。
第一の男 さあ、めいめいに担ぎ出そう。
(二人は瓶の中の金貨と銀貨をつかみ出して、用意の麻袋に詰めている。それを見すまして中二は跳り出づ。)
中二 この泥坊……
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