押え付けてしまった。その騒ぎを聞きつけて、主人も客も座敷から出て来た。
「どうした、どうした。」
「伊平が人間の生首を持って帰りました。」
「人間の生首……。飛んでもない奴だ。わけを言え。」と、八太郎も驚いて詮議した。
こうなれば躊躇してもいられない。もともとそれを報告するつもりで帰って来たのであるから、伊平は下谷の辻番所におけるいっさいの出来事を訴えると、八太郎は勿論、客の池部も眉をよせた。
「なにかの見違いだろう。そんなことがあるものか。」
八太郎は妻を押しのけて、みずからその風呂敷を刎ねのけてみると、それは人間の首ではなかった。八太郎は笑い出した。
「それ見ろ。これがどうして人間の首だ。」
しかしお米の眼にも、伊平の眼にも、たしかにそれが人間の生首に見えたというので、八太郎は行燈を縁側に持ち出して来て、池部と一緒によく検《あらた》めてみたが、それは間違いのない西瓜であるので、八太郎はまた笑った。しかし池部は笑わなかった。
「伊平は前の一件があるので、再び同じまぼろしを見たともいえようが、なんにも知らない御新造までが人間の生首を見たというのは如何《いか》にも不思議だ。これはあ
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