の婦人の立ち去るまでここに待っていてもよろしいのですが……」
「ここに待っているには及ばない」と、僕は言った。「おまえになんにも言うようなことはないのだ」
マデライン嬢はおどろいて飛びあがった。その顔は赧《あか》くなって、その眼は燃えるように輝いた。
「ここに待っている……」と、彼女は叫んだ。「私が何を待っていると思っていらっしゃるの。わたしになんにも言うことはない……。まったくそうでしょう。わたしにお話しなさるようなことはなんにもないはずですもの」
「マデラインさん」と、僕は彼女のほうへ進み寄りながら呶鳴《どな》った。「まあ、わたしの言うことを聴いてください」
しかも彼女はもういってしまったのである。こうなると、僕にとっては世界の破滅である。僕は幽霊の方へあらあらしく振り向いた。
「こん畜生! 貴様はいっさいをぶちこわしてしまったのだ。貴様はおれの一生を暗闇《くらやみ》にしてしまったのだ。貴様がなければ……」
ここまで言って、僕の声は弱ってしまった。僕はもう言うことができなくなったのである。
「あなたは私をお責めなさるが、私が悪いのではありませんよ」と、幽霊は言った。「私はあな
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