は秘密の抽斗《ひきだし》をあけて、その中から魔術の書物を取り出し、ランプをつけて、夜半から朝の三時まで三日もつづいて読み通して、それをノートに書きつけた。それから彼は書物をしまい込んで、次の晩には魔法に必要な材料を買うために町へ出かけたが、彼の求めているものを得るには容易でなかった。なぜといえば、この種の惚れ薬を作ったり、神おろしめいたことをするについて、必要なる合い薬が書物にも完全にしるされていない。またその分量も、自分の痛切なる要求を満たすにとどめておくという限度がなかなかむずかしいからであった。それでも遂に彼は自分の望むすべてのものを求めることができた。彼女が鏡のうちに出て来なくなってから七日目の夕方に、彼は無法な、暴君的な力をかりるべき準備を整えたのである。
 彼はまず部屋の中央にあるものを取りのけてしまった。それから身をまげて自分の立っている周囲に丸い赤い線を引いた。そうして、四隅に不思議な記号《しるし》をつけ、七と九に関する数字をつけて、その輪のどの部分にも少しの相違もないように、注意ぶかく検《しら》べてから起《た》ちあがった。
 彼が起つと、教会の鐘は七時を打った。それと
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