て赤く染めたので、コスモはもう傍《そば》に寄りつきたい心持ちで夢中になっていた。その夜、彼女はダイヤモンドの輝いている夜会服を着ていた。それは格別彼女の美しさを増してはいなかったが、また別な美しさを見せていた。彼女の美しさは無限であって、こうして違った新しい身装《みなり》になると、さらに別な愛らしさを示していた。すべて自然の心は、自然の美しさを見せるために限りなくさまざまな形をあらわし、この世に出て来るすべての美しき人びとは、同じ心臓の鼓動を持っていても、二人とは同じ顔の持ち主はいないのである。個人については猶更《なおさら》のこと、身の廻りのものを限りなく変えて、あらゆる美しさを見せなければならないのである。
ダイヤモンドは彼女の髪の中から、暗い夜の雨雲のあいだから星が光るように、なかばその光りをかくしながら光っていた。彼女の腕環は、彼女が雪のような白い手でほてった顔をかくすたびに、虹の持つようなさまざまの色を輝かしていた。しかも彼女の美しさにくらべれば、これらの装飾は何ものでもなかった。
「一度でもいいから、もし彼女の片足にでも接吻《キッス》することが出来たら、僕は満足するのだが…
前へ
次へ
全43ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング