問のうちには、学校の課程に必要な学科のほかに、あまり世間には知られもせず、認められもしないようなものが含まれていた。彼の秘密の抽斗《ひきだし》には、アルベルタス・マグナス(十三世紀の科学者、神学者、哲学者)や、コンネリウス・アグリッパ(十五世紀より十六世紀にわたる哲学者で、錬金術や魔法を説いた人)の著作をはじめとして、その他にもあまりひろく読まれていない書物や、神秘的のむずかしい書物などがしまい込まれてあった。しかもそれらの研究は単に彼の好奇心にとどまって、それを実地に応用してみようなどという気はなかったのである。
その下宿は大きい低い天井の部屋で、家具らしい物はほとんどなかった。木製の椅子が一|対《つい》、夜も昼も寝ころんで空想にふける寝台が一脚、それから大きい黒い槲《かしわ》の書棚が一個、そのほかには部屋じゅうに家具と呼ばれそうな物は甚《はなは》だ少ないのであった。その代りに、部屋の隅ずみには得体《えたい》の知れない器具がいろいろ積まれてあって、一方の隅には骸骨が立っていた。その骸骨は半ばはうしろの壁に倚《よ》りかかり、半ばは紐でその頸《くび》を支えていて、片手の指をそのそばに立
前へ
次へ
全43ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング