寝台を申し込んでみたまえ。きっと諸君はあの寝台はすでに約束済ですと断わられるだろう。そうだ、あの寝台は生ける屍の約束済になっているのだ。
僕はその航海中、船医の船室に居候をすることになった。彼は僕の折れた腕を治療してくれながら、以後は化け物や怪物を弄《なぶ》り廻さないように忠告してくれた。船長はすっかり黙ってしまった。
カムチャツカ号は依然として大西洋の航行をつづけているが、かの船長は再びその船に乗り込まなかった。むろん僕においてをやだ。実際、あんなに心持ちの悪い、恐ろしかった経験などは、もうまっぴらごめんだ。僕がどうして化け物を見たかという話も――あれが化け物だとすれば――これでおしまいだ。なにしろ恐ろしかったよ。
底本:「世界怪談名作集 下」河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年9月4日初版発行
2002(平成14)年6月20日新装版初版発行
入力:門田裕志、小林繁雄
校正:大久保ゆう
2004年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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