……」
わたしは犯罪者であった。そうして、私はそれを自分でも知っていたので、身から出た錆《さび》だと思って自分の不幸に黙って忍従し、また明らかに無鉄砲に厭《いと》ってもいた。それはちょうど、一人の男が蜘蛛を半殺しにすると、どうしても踏み潰してしまいたくなる衝動と同じことであった。私はこうした嫌厭の情を胸に抱きながら、そのシーズンは終わった。
あくる年わたしは再びシムラで逢った。――彼女は単調な顔をして、臆病そうに仲直りをしようとしたが、私はもう見るのも忌《いや》だった。それでも幾たびか私は彼女と二人ぎりで逢わざるを得なかったが、そんなときの彼女の言葉はいつでもまったく同じであった。相も変わらず例の「思い違いをしている」一点ばりの無理な愁歎をして、結局は、「友達になりましょう」と、いまだに執拗に望んでいた。
わたしが注意して観察したら、彼女はこの希望だけで生きていることに気がついたかもしれなかった。彼女は月を経るにつれて血色が悪く、だんだんに痩せていった。少なくとも諸君と私とは、こういった振舞いはよけいに断念させるという点において同感であろうと思う。実際、彼女のすることはさし出がま
前へ
次へ
全56ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング