と、談笑しながら先日のように、ショタ・シムラの道に沿って馬をゆるやかに進めていった。
 私はサンジョリー貯水場に行って、自分はもう幽霊に襲われないという自信をたしかめるために馬を急がせた。私たちの馬はよく走ったにもかかわらず、わたしの逸《はや》る心には遅くて遅くてたまらなかった。キッティは私の乱暴なのにびっくりしていた。
「どうしたの、ジャック」と、とうとう彼女は叫んだ。「まるでだだっ児《こ》のようね。どうしようというんです」
 ちょうど私たちが尼寺の下へ来た時、わたしの馬が路から跳《おど》り出ようとしたのを、そのままにひと鞭《むち》あてて、路を突っ切って一目散に走らせた。
「なんでもありませんよ」と、私は答えた。「ただこれだけのことです。あなただって一週間も家にいたままでなんにもしなかったら、私のようにこんなに乱暴になりますよ」
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上上の機嫌で囁《ささや》き、歌い、
生きている身を楽しまん。
造化《ぞうか》の神よ、現世の神よ、
五官を統《すべ》る神様よ。
[#ここで字下げ終わり]
 まだ私の歌い終わらないうちに、私たちは尼寺の上の角をまわって、さらに三、四ヤード
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