眼と脳髄と、それから胃袋、特に胃袋からくるのですよ。あなたは非常に想像力の発達した頭脳を持っている割に、胃袋があまりに小さすぎるのです。それで、非常に不健康な眼、つまり視覚上の錯覚を生ずるのですよ。あなたの胃を丈夫になさい。そうすれば、自然に精神も安まります。それにはフランスの治療法によって肝臓の丸薬がよろしい。あなたは今日から私に治療を一任させていただきたい。なにしろあなたは、つまらない一つの現象のために、あまりに奪われ過ぎていますからな」
ちょうどその時、私たちはブレッシングトンの坂下の木蔭を進んで行った。
人力車は泥板岩《シェール》の崖の上に差し出ている一本の小松の下にぴたりと止まった。われを忘れて私もまた馬を止めたので、ヘザーレッグはにわかに呶鳴《どな》った。
「さあ、胃と脳と眼から来る錯覚患者のためにも、こんな山の麓《ふもと》でいつまでも冷たい夜の空気に当てておいていいか悪いか、考えても……。おや、あれはなんだ」
私たちの行く手に耳をつんざくような爆音がしたかと思うと、一寸さきも見えないほどの砂煙りがぱっと立った。轟《とどろ》く音、枝の裂ける音、そうして光りが十ヤード
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