るガラス壜のうちから、輪を作って湧き出している美しい煙りであった。
「ああ、わたしの夢に現われてきた美しいお嬢さん」と、わたしは張りさけるばかりに叫んだ。「あなたはどこにいるのです。何があなたを呪縛しているのです。それをわたしに教えてください。いや、私はみな知っています。あなたを監禁しているのは、腹黒い魔法使いです。八分の五の調子で悪魔の唄を歌ったあとで、褐色の着物に仮髪《かつら》をつけて、菓子屋の店をうろつきあるいて、自分たちの食いものを素早く掻きあつめ、栗をもって悪魔の弟子の犬めを飼っている、あの意地悪な魔法使いに囚《とら》われて、あなたは不運な奴隷《どれい》となっているのです。美しい、愛らしいまぼろしのあなたよ、わたしは何もかも知っています。あのダイヤモンドはあなたの情火の反映です。しかもあの腕にはめている腕環こそは、あなたを縛る魔法の鎖《くさり》です。その腕環を信じてはいけません。もう少し我慢なさい。きっと自由の身になれます。どうぞあなたの薔薇の蕾《つぼみ》のような口をあいて、あなたの居どころを教えてください」
 このとき節くれ立った手がわたしの肩越しにあらわれて、たちまちガラ
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