》をたくみに際立《きわだ》たしているのでした。ただ不思議に見えたのは、その眉がほとんど黒いことでした。それにしても、なんという眼でしょう。ただ一度のまたたきだけでも、一人の男の運命を決めることのできる眼です。今までわたしが人間に見たことのない、清く澄んだ、熱情のある、うるんだ光りを持つ、生きいきした眼でありました。
 二つの眼は矢のように光りを放ちました。それがわたしの心臓に透るのをはっきりと見たのです。わたしはその輝いている眼の火が、天国より来たものか、あるいは地獄から来たものかを知りませんが、いずれかから来ているに相違ありません。彼女は天使《エンジェル》か、悪魔《デモン》かでありました。おそらく両方であったろうと思います。たしかに彼女は普通の女から――すなわちイヴの腹から生まれたのではありませんでした。光沢《つや》のある真珠の歯は、愛らしい微笑のときに光りました。彼女が少しでも口唇《くちびる》を動かすときに、小さなえくぼが輝く薔薇《ばら》色の頬に現われました。優しい整った鼻は、高貴の生まれであることを物語っていました。
 半分ほどあらわに出した滑《なめ》らかな光沢のある二つの肩には
前へ 次へ
全65ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング