はいられませんでした――。
おお、奇蹟です。熱烈に押しつけた私のくちびるに、わたしの息とまじって、かすかな息がクラリモンドの口から感じられたのです。彼女の眼があいて来ました。それは以前のような光りを持っていました。それから深い溜め息をついて、二つの腕をのばして、なんともいわれない喜びの顔色をみせながら私の頸《くび》を抱いたのです。
「ああ、あなたはロミュオーさま……」
彼女は竪琴《たてごと》の音《ね》の消えるような優しい声で、ゆるやかにささやきました。
「どこかお悪かったのですか。わたしは長い間お待ち申していたのですが、あなたが来て下さらないので死にました。でも、もう今は結婚のお約束をしました。わたしはあなたに逢うことも出来ます。お訪ね申すことも出来ます。さようなら、ロミュオーさま、さようなら。私はあなたを愛しています。わたしが申し上げたかったのは、ただこれだけです。わたしは今あなたが接吻をして下すったからだを生かして、あなたにお戻し申します。わたしたちはすぐにまたお逢い申すことが出来ましょう」
彼女の頭《かしら》はうしろに倒れましたが、その腕はまだわたしを引き止めるかのように巻
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