その雲の青い色と赤い屋根との二つの異った色が一つの色に溶《と》け合って、新しく立ち昇る巷《ちまた》の煙りが白い泡のように光りながら、あちらこちらにただよっています。ただ眼に見えるものは一つの大きい建物で、周囲の建物を凌《しの》いで高くそびえながら、水蒸気に包まれて淡《あわ》く霞んでいましたが、その塔は高く清らかな日光を浴びて美しく輝いていました。それは三マイル以上も離れているのに、気のせいか、かなりに近く見えるのでした。殊《こと》にその建物は、塔といい、歩廊といい、窓の枠飾りといい、つばめの尾の形をした風見《かざみ》にいたるまで、すべていちじるしい特長を示していました。
「あの日に照りかがやいている建物は、なんでございます」
 わたしはセラピオン師にたずねました。彼は手をかざして眼の上をおおいながら、わたしの指さす方を見て答えました。
「あれはコンティニ公が、娼婦のクラリモンドにあたえられた昔の宮殿です。あすこでは恐ろしいことが行なわれているのです」
 その瞬間でした。それはわたしの幻想であったか、それとも事実であったか分かりませんが、かの建物の敷石の上に、白い人の影のようなものがすべ
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