た。「不幸なかたね。ほんとうに不幸なかた……どうしたということです」
――わたしはそうしているうちに、とうとう自分の地位の恐ろしさがわかるようになりました。暗い忌《いま》わしい束縛――その生活のうちに、自分がはいっていったということがわかるようになりました。
僧侶の生活――それは純潔にして身を慎んでいること、恋をしてはならないこと、男女の性別や老若の区別をしてはならないこと、すべて美しいものから眼をそむけること、人間の眼を抜き取ること、一生のあいだ教会や僧房《そうぼう》の冷たい日影に身をかがめていること、死人の家以外を訪問してはならないこと、見知らない死骸のそばに番をしていること、いつも喪服にひとしい法衣《ころも》を自分ひとりで着て、最後にはその喪服がその人自身の棺の掩《おお》いになるということであります。
もう一度クラリモンドに逢うには、どうしたらいいかと思いました。町には誰も知っている人がないので、学寮を出る口実がなかったのです。わたしはもうこんな所にいっときもじっとしてはいられないと思いました。そこにいたところが、ただわたしはこれから職に就く新しい任命を待っているばかりです
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