て、私は思わずその皿を床の上に取り落としてしまうほどに、全身に一種の衝動《ショック》を感じた。皿が毀《こわ》れると、液体も流れ出して、磁石は部屋の隅にころがった。――と思うと、その瞬間に、あたかも巨人の手をもって揺すぶるように、四方の壁があちらこちらへと揺れ出した。
職人たちはおどろいて、初めにこの部屋へ降りて来たところの階子《はしご》へ逃げあがったが、それぎりで何事も起こらないのを見て、安心して再び降りて来た。
やがて私がタブレットをひらくと、それは銀の止め金の付いた普通の赤いなめし[#「なめし」に傍点]皮に巻かれていて、そのなかにはただ一枚の厚い皮紙を入れてあった。皮には二重のペンタクルが書いてあって、そのなかに昔の僧侶が書いたらしい語がしるしてあった。それを翻訳すると、こうである。
[#ここから2字下げ]
――この壁に近づく者は、有情と非情と、生けると死せるとを問わず、この針の動くが如くにわが意思は働く。この家に呪いあれ。ここに住む者は不安なれ――
[#ここで字下げ終わり]
そのほかにはなんにもなかった。J氏はそのタブレットと呪文を焼き捨て、さらにその秘密の部屋とその上の寝
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